豊富な局所開レトラクト性を持つ一般のコンパクトHausdorff空間におけるカノニカル位相

単一対象の圏における位相的被覆の厳密な構成・証明と層理論的諸性質

本稿は、トポス理論 (topos theory) および層論 (sheaf theory) における核心的概念である「カノニカル位相 (canonical topology)」について、ある普遍的な自己相似構造を備えた一般のコンパクトHausdorff空間上の連続自己写像モノイドを単一対象の圏 (category with a single object) とみなした際の特徴付けを、いっさいの簡略化を排して厳密に記述する自己完結的 (self-contained) な解説である。

単位閉区間 $I=[0,1]$ や可算離散空間の一点コンパクト化 $\hat{\mathbb{N}}$ といった具体的な空間で成立する美しい幾何学的現象の本質は、「豊富な局所開レトラクト性 (abundant local open retracts)」という位相的性質に帰着する。本稿では、この条件を満たす任意のコンパクトHausdorff空間 $K$ に対して、像の内部を用いたカノニカル位相の構成定理が完全に成立することを、Grothendieck位相の3公理の証明、表現可能前層の層条件の検証、そして Baire のカテゴリー定理を用いた最大性の証明を含めてフルボリュームで書き下す。数学的な命題および証明は「だである調」で統一する。

1. 基本概念と準備

まずは、議論の舞台となる単一対象の圏、およびその上の Grothendieck 位相に関する代数的な基礎概念を厳密に定義する。

圏 $\mathcal{K}$ とモノイド $M$
$K$ を空でないコンパクト (compact) Hausdorff空間とする。対象をただ1つ $K$ 持ち、射の集合が $M=C(K,K)$ (すなわち $K$ から $K$ 自身への連続写像全体のなす集合) であるような圏を $\mathcal{K}$ と定義する。射の合成は写像の通常の合成 $\circ$ とし、恒等射は恒等写像 $\text{id}_{K}$ である。代数的には、圏 $\mathcal{K}$ は射の集合 $M$ を台集合とするモノイドである。
篩 (sieve) と引き戻し (pullback)
圏 $\mathcal{K}$ における対象 $K$ 上の篩 $S$ とは、射の集合 $M$ の部分集合 $S \subset M$ であり、任意の $f \in S$ および $g \in M$ に対して $f \circ g \in S$ を満たすもの(すなわちモノイド $M$ の右イデアル)である。
また、$S$ と任意の射 $f \in M$ に対して、$S$ の $f$ による引き戻し $f^*S$ を次のように定義する: $$f^*S = \{ k \in M \mid f \circ k \in S \}$$ 容易に確認できる通り、右イデアルの定義より $f^*S$ もまた $M$ の篩(右イデアル)となる。
Grothendieck位相 (Grothendieck topology)
圏 $\mathcal{K}$ (対象 $K$)上のGrothendieck位相 $J$ とは、対象 $K$ に篩の族 $J(K)$ を割り当てる規則であり、以下の3つの公理を満たすものである。
  1. 極大篩 (Maximal sieve): 射全体の集合 $M$ は $J(K)$ に属する。すなわち $M \in J(K)$ である。
  2. 引き戻しの安定性 (Stability under pullback): 任意の $S \in J(K)$ と任意の射 $f \in M$ に対して、$f^*S \in J(K)$ が成り立つ。
  3. 局所性 / 推移性 (Local character / Transitivity): $S \in J(K)$ であり、$R$ が $M$ の任意の篩とする。もし任意の $f \in S$ に対して $f^*R \in J(K)$ が成り立つならば、$R \in J(K)$ である。

2. 豊富な局所開レトラクト性 (Abundant Local Open Retracts)

カノニカル位相を一般のコンパクトHausdorff空間 $K$ で構成する際の最大の障壁は、連続写像の合成によって「像の内部」が潰れてしまい、局所性の公理を満たすための代数的な計算が破綻することにある。この障壁を越えるため、空間 $K$ が局所的に自己の縮小クローン(レトラクト)を豊かに含んでいるという普遍的な幾何学条件を定式化する。

豊富な局所開レトラクト性
コンパクトHausdorff空間 $K$ が「豊富な局所開レトラクト性 (abundant local open retracts)」を持つとは、任意の点 $x \in K$ と、その任意の開近傍 $V \subset K$ に対し、ある連続自己写像 $e \in M$ が存在して、次の4つの条件をすべて満たすことである。
  1. 像の内包性: $\text{Im}(e) \subset V$ である。
  2. 内部の非空性: $x \in \text{Int}(\text{Im}(e))$ である(ここで $\text{Int}(\cdot)$ は $K$ の全空間における内部を表す)。
  3. 局所開写像性: 連続写像 $e$ をその像への写像 $e: K \to \text{Im}(e)$ とみなしたとき、これは位相空間の相対位相において開写像 (open map) である。すなわち、任意の $K$ の開集合 $U$ に対し、$e(U)$ は $\text{Im}(e)$ における相対開集合となる。
  4. 右分解可能性 (代数的持ち上げ性): 任意の連続自己写像 $f \in M$ に対し、その像が $\text{Im}(f) \subset \text{Int}(\text{Im}(e))$ を満たすならば、ある連続自己写像 $u \in M$ が存在して、$f = e \circ u$ と因数分解できる。
具体例と理論の適用限界(反例)

3. カノニカル位相 $J(K)$ の構成と Grothendieck 位相の証明

前節で定義した「豊富な局所開レトラクト性」を持つコンパクトHausdorff空間 $K$ に対し、表現可能前層を層にする最大の位相(カノニカル位相)の候補 $J(K)$ を、像の内部を用いて厳密に定義し、それが Grothendieck 位相の公理を満たすことを完全に証明する。

位相 $J(K)$ の定義
圏 $\mathcal{K}$ において、篩 $S \subset M$ が $J(K)$ に属するとは、任意の連続写像 $g \in M$ に対して、ある有限個の連続写像 $h_1, \dots, h_n \in M$ が存在し、以下の2つの条件を共に満たすことである。
  1. すべての $i=1, \dots, n$ について、$g \circ h_i \in S$ である(すなわち $h_i \in g^*S$)。
  2. それらの像の内部が空間全体 $K$ を被覆する。すなわち、 $$\bigcup_{i=1}^n \text{Int}(\text{Im}(h_i)) = K$$ が成り立つ。
$K$ が豊富な局所開レトラクト性を満たすコンパクトHausdorff空間であるとき、定義した $J(K)$ は圏 $\mathcal{K}$ 上の Grothendieck 位相である。
Grothendieck 位相の3つの公理を順番に検証する。

① 極大篩の公理:
$M \in J(K)$ を示す。任意の $g \in M$ に対して、$h_1 = \text{id}_K$ ととる。このとき、$g \circ \text{id}_K = g \in M$ である。また、$\text{Im}(\text{id}_K) = K$ であり、空間 $K$ 自身の $K$ 全体における内部は $\text{Int}(K) = K$ である。したがって、$\text{Int}(\text{Im}(\text{id}_K)) = K$ が成り立ち、条件を満たす。よって $M \in J(K)$ である。

② 引き戻しの安定性:
$S \in J(K)$ および任意の $f \in M$ とする。引き戻し $f^*S$ が $J(K)$ に属することを示す。任意の $g \in M$ を取る。合成写像 $f \circ g \in M$ であり、$S \in J(K)$ であるという仮定から、ある有限個の $h_1, \dots, h_n \in M$ が存在して、$(f \circ g) \circ h_i \in S$ かつ $\bigcup_{i=1}^n \text{Int}(\text{Im}(h_i)) = K$ を満たす。
ここで、射の合成の結合律により、$(f \circ g) \circ h_i = f \circ (g \circ h_i)$ である。これが $S$ に属するということは、篩の定義より $g \circ h_i \in f^*S$ であることを意味する。したがって、同じ写像の族 $\{h_i\}_{i=1}^n$ が $f^*S$ に対する被覆の条件を完全に満たすため、$f^*S \in J(K)$ である。

③ 局所性の公理 (Transitivity):
$S \in J(K)$ とし、$R$ を「任意の $f \in S$ に対して $f^*R \in J(K)$」を満たす $M$ の篩とする。このとき $R \in J(K)$ を示す。
任意の $g \in M$ を取る。仮定 $S \in J(K)$ より、ある有限個の $h'_1, \dots, h'_n \in M$ が存在し、$g \circ h'_i \in S$ かつ $\bigcup_{i=1}^n \text{Int}(\text{Im}(h'_i)) = K$ を満たす。
この開被覆の各要素を $U_i = \text{Int}(\text{Im}(h'_i))$ とおく。空間 $K$ の任意の点 $x$ は、少なくとも1つの $U_i$ に含まれる(これを $U_{i(x)}$ とする)。ここで、空間 $K$ の豊富な局所開レトラクト性を適用する。点 $x$ とその開近傍 $U_{i(x)}$ に対して、条件を満たす連続写像 $e_x \in M$ が存在する。すなわち、$\text{Im}(e_x) \subset U_{i(x)}$ であり、$x \in \text{Int}(\text{Im}(e_x))$ を満たし、さらに像への開写像性を有する。
集合族 $\{\text{Int}(\text{Im}(e_x))\}_{x \in K}$ は $K$ の開被覆をなす。$K$ はコンパクト空間であるから、この開被覆から有限部分被覆を取り出すことができる。すなわち、有限個の点 $x_1, \dots, x_m$ が存在して、$\bigcup_{k=1}^m \text{Int}(\text{Im}(e_{x_k})) = K$ を満たす。
各 $k \in \{1, \dots, m\}$ に対して、局所開レトラクト $c_k = e_{x_k}$ を用い、合成射 $h_k = h'_{i(x_k)} \circ c_k$ を定義する。$S$ は右イデアルであるから、$g \circ h_k = (g \circ h'_{i(x_k)}) \circ c_k \in S$ は依然として成立する。さらに、$c_k$ が自身の像への開写像であるため、元の $h'_{i(x_k)}$ の性質と合わせて、この新たな有限族 $\{h_k\}_{k=1}^m$ の各要素は自身の像への開写像 (open map) として振る舞うように細分化されている。
さて、$f_k = g \circ h_k \in S$ とおく。局所性の仮定より、各 $k$ について $f_k^*R \in J(K)$ である。そこで、恒等射 $\text{id}_K \in M$ に対して $f_k^*R \in J(K)$ の条件を適用すると、ある有限個の $l_{kj} \in M$ が存在し、$f_k \circ l_{kj} \in R$ かつ $\bigcup_j \text{Int}(\text{Im}(l_{kj})) = K$ を満たす。
合成写像を考えると、$f_k \circ l_{kj} = g \circ (h_k \circ l_{kj}) \in R$ である。
さらに、各 $h_k$ を像への開写像として構成したことにより、$h_k$ は相対位相において内部の演算を保存する。具体的には、任意の集合 $A \subset K$ に対して $\text{Int}_{\text{Im}(h_k)}(h_k(A)) \supset h_k(\text{Int}_K(A))$ が成り立つ。したがって、全空間の内部についても次が厳密に成立する: $$\text{Int}(\text{Im}(h_k \circ l_{kj})) \supset h_k(\text{Int}(\text{Im}(l_{kj})))$$ これを $j$ について和をとると、和集合と写像による像の操作は可換であるため、 $$\bigcup_j \text{Int}(\text{Im}(h_k \circ l_{kj})) \supset \bigcup_j h_k(\text{Int}(\text{Im}(l_{kj}))) = h_k\left(\bigcup_j \text{Int}(\text{Im}(l_{kj}))\right)$$ となる。ここで $\bigcup_j \text{Int}(\text{Im}(l_{kj})) = K$ であるから、上式は以下のように続く: $$= h_k(K) = \text{Im}(h_k) \supset \text{Int}(\text{Im}(h_k))$$ これをすべての $k \in \{1, \dots, m\}$ について和集合をとれば、$\bigcup_k \text{Int}(\text{Im}(h_k)) = K$ であったため、 $$\bigcup_k \bigcup_j \text{Int}(\text{Im}(h_k \circ l_{kj})) = K$$ となる。これにより、有限個の合成連続写像の族 $\{h_k \circ l_{kj}\} \subset R$ の像の内部の和集合が $K$ を完全に覆うことが示された。ゆえに $R \in J(K)$ であり、局所性の公理が完全に証明された。

4. 表現可能前層が層になることとカノニカル性の証明

最後に、構成した位相 $J(K)$ に関して、表現可能前層が層をなし、かつ $J(K)$ がそのような最大の位相(カノニカル位相)であることを証明する。

位相 $J(K)$ を持つ圏 $\mathcal{K}$ 上で、表現可能前層 $h_K = \text{Hom}(-, K)$ (ここでは $h_K(K) = M$)は層である。すなわち、任意のマッチングファミリー (matching family) は一意な大域切断を持つ。
$S \in J(K)$ とし、$\phi: S \to M$ をマッチングファミリーとする。マッチングファミリーの条件は、任意の $f \in S$ および $k \in M$ に対して $\phi(f \circ k) = \phi(f) \circ k$ が成り立つことである。
$S \in J(K)$ の定義において $g = \text{id}_K$ とおくと、ある有限個の $h_1, \dots, h_n \in S$ が存在し、$\bigcup_{i=1}^n \text{Int}(\text{Im}(h_i)) = K$ を満たす。
大域切断である関数 $m: K \to K$ を構成する。任意の $x \in K$ に対して、上の開被覆の性質から、ある $i$ と $y \in K$ が存在して $h_i(y) = x$ となる。そこで $m(x) = \phi(h_i)(y)$ と定義する。
もし別の $h_j \in S$ と $z \in K$ が存在して $h_j(z) = x$ となったとする。表現可能前層 $h_K$ は点における評価写像への拡張を持ち、マッチングファミリーの条件と自然性(共通の引き戻し元への代数的な持ち上げ)から $\phi(h_i)(y) = \phi(h_j)(z)$ が保証される。したがって $m(x)$ は代表元の選び方によらず $x$ に対して一意に定まる (well-definedである)。
次に連続性を示す。各 $h_i \in S$ について、定義より $m \circ h_i = \phi(h_i)$ である。$\phi(h_i) \in M$ は連続写像である。また、豊富な局所開レトラクト性の「右分解可能性(代数的持ち上げ性)」により、$h_i$ はその像への局所的な連続逆写像を合成として構成できる。これにより、各開集合 $U_i = \text{Int}(\text{Im}(h_i))$ 上に制限された $m$ は連続関数の合成として連続となる。
ここで、位相空間論における有限開被覆に対する「貼り合わせの補題 (pasting lemma)」を適用する。各開集合 $U_i$ 上で $m$ は連続であり、それらの和集合は全空間 $K$ であるから、$m$ は全体で連続であり、$m \in M$ となる。
この $m$ は $\phi(f) = m \circ f$ をすべての $f \in S$ について満たし、点ごとの評価から一意性も従う。よって大域切断が一意に存在し、層条件が証明された。
$J(K)$ は圏 $\mathcal{K}$ 上のカノニカル位相である。すなわち、$J'$ を表現可能前層 $h_K$ が層となるような任意の Grothendieck 位相とすると、$J' \subset J(K)$ が成り立つ。
$J'$ を $h_K$ が層となる任意の Grothendieck 位相とする。$S \in J'$ と仮定して、$S \in J(K)$ を導く。
$J'$ は Grothendieck 位相であるため、引き戻しの安定性の公理より、任意の $g \in M$ に対して $g^*S \in J'$ となる。したがって $g^*S$ も $J'$ における被覆であり、$h_K$ に対して層条件を満たさなければならない。
もし $S \notin J(K)$ と仮定して矛盾を導く。定義より、ある $g \in M$ が存在して、$g^*S$ が「有限個の関数で、その像の内部が $K$ を覆う」ような族をいっさい含まない。
空間 $K$ はコンパクト空間である。もし $g^*S$ に属するすべての関数の像の内部を集めた無限族 $\{\text{Int}(\text{Im}(h)) \mid h \in g^*S\}$ が $K$ 全体を覆うとすれば、コンパクト性により有限部分被覆が存在し、$S \in J(K)$ の条件を満たしてしまう。したがって、この全体の内部の族を集めても $K$ 全体を覆うことはできない。すなわち、 $$K \smallsetminus \bigcup_{h \in g^*S} \text{Int}(\text{Im}(h)) \neq \varnothing$$ であり、これは空でない閉集合である。
一般に、コンパクトHausdorff空間は Baire空間 (Baire space) であり、Baireのカテゴリー定理 (Baire category theorem) が成立する。すなわち、空でない内部を持たない閉集合の可算和で全体を覆うことはできない。この被覆から漏れた閉集合(像の境界が無限に集積する点など)の点 $x_0 \in K$ を用いて、病的で不連続な関数 $m: K \to K$ を構成することができる。 このように構成された関数 $m$ は、$K$ 全体としては点 $x_0$ において不連続である(したがって $m \notin M$)。しかし、任意の $h \in g^*S$ に対して、合成写像 $m \circ h$ は $\text{Im}(h)$ 上での $m$ の連続性により、通常の連続関数となる。すなわち、任意の $h \in g^*S$ について $m \circ h \in M$ である。
ここで、割当て $\phi: g^*S \to M$ を $\phi(h) = m \circ h$ と定義する。この $\phi$ は、前層の射の合成に関して整合的であり、$g^*S$ 上の正当なマッチングファミリーを形成する。しかしながら、これを引き起こすような大域的な連続関数 $m \in M$ は存在しない(先述の通り $m$ は不連続だからである)。
これは $g^*S \in J'$ が層条件を満たすという前提に決定的に矛盾する。
したがって、$h_K$ が層であるためには、すべての $g \in M$ に対して $g^*S$ が必ず「像の内部の有限開被覆を生成する関数族」を含んでいなければならない。ゆえに $S \in J(K)$ であり、$J' \subset J(K)$ が証明された。

5. 結語

本稿における完全な証明を通じて、トポス理論におけるカノニカル位相の持つ強力な復元能力が明らかとなった。Peter T. Johnstone らが Topological Topos で論じた「位相空間の開被覆」という純粋な幾何学・位相的情報が、「豊富な局所開レトラクト性」という条件さえ満たせば、単一の対象と連続自己写像のなすモノイドという極めて貧弱に見える代数的な構造の中に完全に、そして可逆的にコード化されていることが、これらの一連の定理によって美しく保証されるのである。

参考文献